宜昌を出発してすぐのところに「葛洲坝」というダムがあり、これも閘門を備えているなかなか大きなダムだ。
実際のところ閘門初体験だった。
「閘門」とは、水位の異なる水面を船で行き来できるようにするしくみで、パナマ運河やスエズ運河にあるらしい、ということは昔学校で習ったが、名前のインパクトだけで今まで記憶にあるような代物だ。
葛洲坝の閘門は三峡大坝のものよりもだいぶ小さく、大型旅客船だったら一台ようやく入るような大きさだった。

なにげに壮観な光景だ。
閘門にはいると、こんな風に扉が閉まり、水とかゴミとかがたまっていく。
ここまで溜まると、よく水漏れしないもんだと感心する。
何トンくらいの圧力が扉にかかっているのか。自分の括約筋ではとても耐えられない。
しかしこれよりさらにでかいのが三峡大坝だ。
閘門が4層連なっている。もはや地球上の生物ではない感じだ。エイリアンか。

これで大きさは伝わるだろうか。
このくらいのものが4層続き、だんだん高く上がっていく。
一つの層で旅客船2隻分くらいの水位を上がる。合計で175mも上がるらしい。
「三峡」とは、「西陵峡」「巫峡」「瞿塘峡」の総称だ。長江の両岸は切り立った崖が続き、その崖やら奇岩やらを見上げながらまったりするのが三峡遊覧のあり方だ。

こんな感じの光景が延々と続くわけだ。
2日目には巫峡小三峡の観光があった。
巫口という地点で小さい船に乗り換え、細い支流をさかのぼっていく。
川が細く崖も迫力があり、長江より水もきれいだ。奇岩が次々に現れるので、長江をさかのぼるより飽きない。

次に、小三峡からさらに船を乗り換え、小小三峡というところを遊覧した。
これがまたおもしろかった。
ディズニーランドのなんとかクルーズみたいな船に乗り、ベトコンみたいな帽子をかぶったおっさんが前でガイドしてくれる。
峡谷の崖のところに笛を吹いてる人がいたり、民謡を歌う人がいたりして、本当になんとかクルーズだ。
こういう時の中国人のうかれっぷりは甚だしく、船の中で歌い出す客もいて、しまいにはみんなで民謡の合唱まで始まってしまった。
最初は、崖の上で歌ってる人に客の一人が大声で「kouqi!」と合いの手を入れた。
それが繰り返されるうちに合いの手を入れる人数が増えてきて、しまいには「kouqi!」の大合唱になった。
それで、後ろで船の舵を取っていたおっさんが、おもしろくなったのか、その「kouqi!」の歌を最初から最後まで全部歌ってくれ、さらに別の歌まで歌ってくれた。

このおっさんだ。日本にいた頃に通っていた某サッカー教室のコーチに本当にそっくりだ。笑うとさらに似ている。
このおっさんによると、「kouqi!」とは、仲のよい友達、というような意味の方言らしい。漢字でどう書くの?と客の中国人が聞いたところ、表現する漢字はない、という説明だった。
こういうとき中国人は本当に陽気で、分かる箇所は合わせて大声で歌ったり、おっさんが区切りのよいところで止めようとしたら、次は?みたいに催促したり、楽しもうとするときは存分に楽しむ。
こうなると前のガイドのおっさんも黙っていられず、別の民謡を歌って、最後はみんなの拍手をもらっていた。
こういう感じの一体感のもてる交流というのを持つ機会はなかなかなく、自分の中ではよい思い出になった。
そういうわけで自分達の乗った小舟は他の人たちが乗ったものよりも盛り上がったようだった。
後で大船に戻ったとき、ガイドのお姉さんが民謡を紹介してくれ、私が「kouqi!」って言ったら「kouqi!」って合いの手を入れてください、と言って歌い始めたのはいいが、いまいち活きのいい合いの手が返ってこない、という日本でよく見るような光景を繰り広げていた。
少しだけ違うのは、一部の客だけ奇声に近い大声で「kouqi!」と返していたことだろうか。
自分は外の甲板でその奇声を聞きながら、あ〜やってるな〜、なんて昔の仲間を懐かしむような感傷に浸っていた。
後編へ続く