新しくなるのでHSKも進化するのかと思ったら、どうもそうではないらしい。
従来は基礎、初中級、高級の三種類の試験があり、等級も1〜11級まであったが、新HSKは1〜6級までで、4級が中級相当、6級が高級相当。
費用は、旧HSKが200元〜400元。新HSKは150元〜650元。級が高くなると値段も上がる。さらに、新HSKは口述試験が別枠で、高級だと400元かかる。だから、6級+口述を受けると、1050元かかる。
試験時間は、旧HSKがヒアリング、リーディング、総合の合計で110分。新HSKが、ヒアリング、リーディングの合計で80分。さらに作文がそれぞれ30分ほどある。旧HSKはさらに口述が20分ある。
試験の難易度は、旧HSKの方が高い。新HSKが全科目合計で60点以上取れれば合格なのに対し、旧HSKは高得点を取れれば数字の大きい級を合格できるが、一つの科目が極端に低いといくら他の科目で高得点を取っても上の級は合格できない。新HSKは例えばヒアリングが全然できなくても6級合格することはできるが、旧HSKでは全ての能力が高くないと8級等は合格できない。
だから、日本人なんかは漢字が読めるので、中国に留学してきていきなり新HSKの6級を受けて受かってしまうこともある。
新HSKの口述試験もかなりレベルが低いらしい。
聞いた話では、中級の口述は、まず録音を聞いてそれを復唱する。それから一枚の絵を見せられ、その絵を見て話を2分間で言う。絵の内容も、雨の日に女の子が傘を持ってバス停で立ってる、というような日常的な光景で、難しくなりようがない内容らしい。
高級の口述も、旧HSKよりは全然簡単らしい。旧HSKの高等の口述は、「広告は大衆にとって害を与えるものかそれとも利益を与えるのか」とか、「女性は結婚後も働き続けるべきか」とか、そういう問題を3分間で言わないといけない。
つまり、新HSKは旧HSKよりも値段が高いうえに試験時間は短く難易度もかなり簡単になっていて、合格基準も欠陥があるという、どこもいい所のない試験のように思える。
一般的には、後から出てきたものが前のものより劣る、ということはないんじゃないかと思うが、今回はどうやらそういうことがあってしまったようだ。
そもそも、HSKを運営する組織は、旧HSKは北京語言大学だったが、新HSKは「国教委対外漢語教学発展中心」、略称「漢弁」という組織が運営する。この「漢弁」は政府系の組織で、国の普通語の普及に権力を持っているらしく、国外への普及に多大な貢献をしてきて、莫大な利益を得られるHSKを組織設立以来あの手この手で強奪しようとしてきた。そして2010年に完全に手中に収めたようだ。
北京語言大学が長年研究開発し、運営してここまで普及させたHSKを、後から入ってきて国家権力で商標権と運営権を横取りしてしまった。長年かかってHSKを育ててきた大学の関係者にとっては無念だろう。
細かな経緯は「追記」に張り付けた。長いので中国語のままだが。
中国に来て何年もたち、中国国内の事情もある程度わかってきた。
近頃政府がいろんな業務に資格制度を設けている。工場でいえば爆発や危険作業などの安全事故が絶えないので、危険物取扱や特殊作業設備の資格などは近年監視を強化している。これらは当然やるべきことだ。
しかし、安全監督研修を受けた者についてや、役所に自社のデータを統計して報告するための資格などもあり、こういう人が会社に1人以上いないと処罰される。この辺になるとよく分からなくなる。
資格を設けて業務に従事する者の能力を客観的に保障しようとすること自体はいいのだが、それに役所がカリキュラムを作って研修を行い、役所がテストするのがよくない。
役人にとっては、研修費用と受験料、証書発行料などが手に入ればそれでいいようで、資格の真の目的や合格者の質なんかはどこかに飛んでいってしまうのだ。
政府の役人たちは何とか手段を講じて収入源を増やそうとしているように思える。賄賂に対する取り締まりが年々厳しくなっているので、資格ビジネスにも手を伸ばしているのだろうか。
まあ我々にとってはHSKがちゃんと客観的に中国語の能力を測れて学習のモチベーションを高めてくれる試験に育ってくれればいい。「漢弁」HSK強奪事件の顛末
ラベル:中国語